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老教授かく語りき
ミラー越しに映るのは白髪交じりの初老の男性の姿だった。私より少し年上だろう。職業が教授なのは想像できていた。大学の前で乗せたからだ。
「君、最近の若者をどう思うかね?」
唐突な質問に、少し考えてから答える。
「どうと言われましても。そうですね、流行に敏感だなとは思いますね。インフルエンサーの影響力はすごいですから」
「なるほど、それもある。しかし、我々にとってはAIの発達の方が問題なのだよ。学生のレポートをAIが作っていても、見分けがつかない」
教授も今の時代に苦労しているようだ。
「確かにそうですね。私が学生の時分はパソコンなんてなかったので、気軽に書き直しができるだけで満足してほしいくらいです」
私は教授が求めているであろう返答を口にする。
「まったくだ。世の中便利になりすぎて、当たり前になっている。少しはありがたみを感じるべきだ。おっと、これはいけない。イライラしすぎると健康に良くない」
そう言いながら、男性はポケットから一枚の写真を取り出した。彼の顔にふっと笑みが浮かぶ。
「孫の写真だよ」
どうやら私が気になっていたことを察したらしい。
「来年小学生になるんだ。あまりにも可愛くてね。目に入れても痛くないとはこのことか、とようやくわかったんだよ」
教授の顔が、まるで自慢の品を見せるように輝いているのが印象的だ。
「それは素晴らしいですね。この前のゴールデンウィークには、お孫さんが来たんですか?」
「そうなんだよ。半年のうちに背も伸びてね。近所の動物園に連れて行ったら、とても喜んでいたよ。『おじいちゃん、また行きたい』ってせがまれたんだ」
教授の笑顔は、孫との思い出を語るたびに深まっていく。
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