老教授かく語りき

1/2
前へ
/72ページ
次へ

老教授かく語りき

 ミラー越しに映るのは白髪交じりの初老の男性の姿だった。私より少し年上だろう。職業が教授なのは想像できていた。大学の前で乗せたからだ。 「君、最近の若者をどう思うかね?」  唐突な質問に、少し考えてから答える。 「どうと言われましても。そうですね、流行に敏感だなとは思いますね。インフルエンサーの影響力はすごいですから」 「なるほど、それもある。しかし、我々にとってはAIの発達の方が問題なのだよ。学生のレポートをAIが作っていても、見分けがつかない」  教授も今の時代に苦労しているようだ。 「確かにそうですね。私が学生の時分はパソコンなんてなかったので、気軽に書き直しができるだけで満足してほしいくらいです」  私は教授が求めているであろう返答を口にする。 「まったくだ。世の中便利になりすぎて、当たり前になっている。少しはありがたみを感じるべきだ。おっと、これはいけない。イライラしすぎると健康に良くない」  そう言いながら、男性はポケットから一枚の写真を取り出した。彼の顔にふっと笑みが浮かぶ。 「孫の写真だよ」  どうやら私が気になっていたことを察したらしい。 「来年小学生になるんだ。あまりにも可愛くてね。目に入れても痛くないとはこのことか、とようやくわかったんだよ」 教授の顔が、まるで自慢の品を見せるように輝いているのが印象的だ。 「それは素晴らしいですね。この前のゴールデンウィークには、お孫さんが来たんですか?」 「そうなんだよ。半年のうちに背も伸びてね。近所の動物園に連れて行ったら、とても喜んでいたよ。『おじいちゃん、また行きたい』ってせがまれたんだ」  教授の笑顔は、孫との思い出を語るたびに深まっていく。
/72ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加