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「動物園だけじゃなくてね、公園でもかくれんぼをしたんだ。童心に帰ってしまって、こっちまで楽しくてね」
教授の言葉が途切れ、彼は少し首を傾げた。何か気になることがあったのだろうか。
「でも、どうしても解せないことがあったんだ。孫を見つけることができなかったんだよ。完敗だったんだ」
私は少し笑いながら返す。
「お孫さん、かくれんぼが上手なんですね」
「それもそうだが、公園は広くないし、隠れる場所も限られていたんだ。それなのに、どこを探しても見つからなくて。結局悔しくて、孫に聞いたんだが、ニコニコするばかりで教えてくれなかった」
なるほど、これは面白い。単純な話ではなさそうだ。頭の中でいくつかの可能性が浮かび始める。
「その公園、最近できたんじゃないですか?」
私の質問に教授は少し驚いた様子で答える。
「その通りだが、かくれんぼとは関係ないだろう?」
教授は私の意図が掴めない様子で、少し不機嫌そうにしている。
「いや、関係大ありですよ。これはあくまで推測ですが、お孫さんはトイレに隠れていたのでは?」
教授の顔に不快感が浮かぶ。
「馬鹿にするな! そんなところは真っ先に探したさ」
「ですが、中をじっくり見たわけではないんじゃないですか?」
教授が思い返すようにして黙る。
「トイレは電気がついてなくて、人はいなかった。だから覗いただけで中までは入らなかったが」
やはり。
「最近の公園に設置されているトイレには人感センサーがついています。しばらく動きがないと自動的に電気が消える仕組みになっているんです。お孫さん、動かずにじっとしていたんじゃないですか?」
教授は一瞬固まり、それから手を叩いて笑った。
「なるほど! 孫がそれを利用したってわけか! いやぁ、してやられたな」
「あくまでも推測ですけどね」
「いや、そうに違いない。こりゃ一本取られたよ」
私は笑みを浮かべながら返す。
「お孫さん、まだ小さいんですよね? その年で人感センサーを利用するなんて、普通は思いつきませんよ。将来が楽しみですね」
「まったく。これでまた孫自慢が増えたよ」
教授の言葉には、孫に対する溢れる愛情と、どこか誇らしげな響きがあった。
教授が再び座席に沈み込み、窓の外を見つめる。その姿にどこか穏やかさを感じ、私は静かにハンドルを握り直す。
さて、次のお客様はどんな話を持っているだろうか? そう思いながら、私は夜の街へと車を走らせた。
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