溶けないかき氷の謎

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「全国一を決めると言っても、我々審査員の評価だけではなく、お客さんの投票も加味されるんです。まあ、当たり前ですが」  私たち審査員の評価だけではない、と乗客は淡々と続けた。その言葉には少しの苛立ちが滲んでいるようにも感じたが、表面上は冷静だ。公平性の観点から考えれば、観客の意見を反映させるのは当然のことだろう。特に、顧客の味覚はイベントの成否を決める重要な要素だ。私はそう考えつつ、ちらりと後部座席の乗客の表情をミラー越しに確認する。 「優勝は絶品かき氷を出す有名店に違いなかった。コンテストが始まるまでは」  乗客の声が急に熱を帯びた。話の核心に近づいているらしい。彼の顔には少し緊張が走っているように見え、私はハンドルを握る手に自然と力が入った。 「ところが、お客さんの投票結果で違う店が優勝したんです。それが一風変わった店でして。一つの味だけで勝負するという、まるで回転効率を重視したような店でした」  その言葉に私は思わず眉をひそめた。一つの味だけで勝負? それは相当な自信がなければできないことだ。だが、それにしてもそんな戦略が勝ちに繋がるとは思えない。 「確かにそれは変わっていますね。一つの味で勝負とは、よほど自信があったんでしょうね。お客様はそのかき氷を食べられたんですか?」 「ええ、食べましたとも」  乗客は小さくうなずく。その動作から感じる微妙な違和感。何かが引っかかっているのだろう。彼の表情に浮かぶのは納得のいかない複雑な感情だ。 「しかし、特別うまいという訳ではなかった。イベントに参加した他の店と比べると、まあ中の上でしょうか」  彼の声には少しばかりの悔しさが滲んでいた。私はふと、彼が審査員として完璧な判断を下すことに誇りを持っていることを感じ取った。だが、その誇りがどこか揺らいでいる。それが原因か。 「なるほど、確かに不思議ですね。お聞きした話から考えれば、絶品かき氷店が優勝しない方がおかしく感じます」  私は率直な感想を口にした。乗客の言葉に含まれていた「不思議だ」というフレーズが、今ならようやく意味を成している気がした。どうやらこの謎が彼を悩ませているらしい。
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