ミステリー愛好家、オチを忘れる

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後部座席では、二人組が何やらミステリー小説について話をしている。彼らの会話が耳に入ってきた。どうやら二人ともミステリー好きらしい。私も同じ趣味を持っているので、彼らの会話には自然と微笑んでしまった。ミステリー小説について語り合うのは、共感できる楽しい時間だ。  ところが、ある作品についての話になると、ふたりの会話が突然途切れた。『五十円玉二十枚の謎』。その小説のタイトルを耳にした瞬間、私の心がピクッと反応する。この作品はミステリー好きの間では有名なものだ。ある作家の実体験をもとに書いたもので、いくつかの解答を提示するという、少し変わった作品だった。   「やっぱり、お前も思い出せないか?」一人がため息混じりに言った。 「うーん、無理だな……」もう一人も首をひねる。  私は後部座席の会話に思わず口を挟んでしまった。「もしかして、『五十円玉二十枚の謎』の解答の一つが思い出せないのでしょうか?」  二人は驚いた顔で私を見て、互いに顔を見合わせた後、意を決したように話し始めた。 「運転手さんもミステリー好きなんですか?実はこんな話だったんですが、オチがどうしても思い出せないんです」 「おそらく分かるかもしれませんが、保証はできません」私は少し謙遜しながら返答した。  彼らはそのまま話を続ける。「最初は、謎の男が千円札を50円玉20枚に両替するところから始まるんです。ここまでは普通ですよね」   「ええ」私は小さく相槌を打つ。 「その後、近所で凶器が見つからない殺人事件が起こるんです」  私はうなずく。どうやらその両替した男と事件が繋がっているのは間違いなさそうだ。 「そして、男が今度は50円玉20枚を千円札に両替してくれと頼むんですよ。」  私はここで首をかしげた。確かに、そんな展開があっただろうか。記憶にある筋書きとは少し違う気がする。しかし、ふたりは真剣な表情で私を見つめている。オチが思い出せないとはいえ、ここまでの情報で推理することはできる。 「バラしてから戻す……バラす?」私はふとある考えにたどり着いた。
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