モテるにはカフェで窓際の席を選ぶべし……?

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モテるにはカフェで窓際の席を選ぶべし……?

「運転手さん、私にもモテ期が来たようなんです」  それは、信号が赤に変わるタイミングで唐突に口にされた言葉だった。運転席のミラー越しに映るのは、スーツをきちんと着こなした40歳前後の男性。彼の声には自信と少しの得意げな響きがあった。 「モテ期到来ですか。羨ましいものです。私はこの歳ですから、そういうものとは無縁でして」と私は軽く返す。年齢を重ねると、昔のことを思い出すことはあるが、今さらモテ期などとは縁遠い気がする。   「それがですね、休日はカフェで執筆をするんです。副業でwebライターをしていてね」と男性が話を続ける。彼の口調からは、日々の執筆活動がとても充実していることが伝わってきた。 「なるほど、副業ですか。最近は副業をする人が増えていますからね」 「私はいつも窓際の席を陣取るんです。そこから見える景色が最高でね」と男性が語り始める。彼の表情には、自分の好きな場所で過ごす楽しさが溢れていた。 「すると、毎回私の右隣の席に若い女性が座るんです! それだけなら偶然かもしれませんが、右隣が埋まっていると、今度は左隣に座るんです! これは私が目的としか言いようがないでしょう?」と男性は、まるで自分の話に酔いしれているかのように話す。彼の興奮した様子に、こちらも思わず微笑んでしまう。 「確かに、なかなか興味深い現象ですね」と私は、彼の話に相槌を打ちながら冷静に考える。果たして、これだけの状況で本当にモテ期だと言えるのだろうか?  どうやら私の疑問に気づいたらしい男性は、少しむすっとした表情を見せた。やはり、ポーカーフェイスを心掛けるべきだったと反省しつつも、男性はさらに説明を続けた。 「だって、女性が絶えずに私の隣に座るんですから、モテ期以外の何だと考えますか?」 「そうですね、あなたのおっしゃる通りです」と私は彼が求めているであろう答えを返す。  男性は満足そうに頷き、さらに鼻歌を歌い始めた。その姿は、まるで自分のモテ期を心から楽しんでいるかのようだった。
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