溶けないかき氷の謎

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「その変わった店が優勝したからには、何か観客の心を掴むものがあったのでしょうか」  私はさりげなく問いを投げかける。会話を誘導しつつ、何か引っかかるものがあるかを探るためだ。タクシーのエンジン音だけが静かに響く中、乗客は少し間をおいて話し始めた。 「ええ、もちろん。その店のかき氷なんですが、全然溶けないんです。他の店の倍くらいですかね。とにかく長持ちするんですよ。ああ、例えですよ」  その言葉に、私は思わず驚いた顔をしそうになるが、運転手としての落ち着きを保つ。車内の温度は適度に冷やされているが、そんな中でも溶けないかき氷とは妙な話だ。かき氷というものは、夏の風物詩であり、時間とともに溶けていくその儚さが魅力の一部でもある。それが、まるで溶けないとなれば、何か違和感を感じざるを得ない。 「それが面白いということで、評判が広がり観客の支持を得た。そういうことです」  乗客は、これまでの話を締めくくるように、どこか納得した様子で一息ついた。車内にまた静けさが戻る。彼が言うことは理解できる。確かに、そのユニークさが観客の心を掴んだのだろう。しかし、私はまだ何かが引っかかっていた。味ではなく、かき氷の「溶けにくさ」で勝負した店。それは一種の工夫であり戦略だが、どのようにして実現させたのか。探偵としての知的好奇心を刺激された。
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