溶けないかき氷の謎

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「なるほど、それで『不思議だな』と仰ったのですね。私もかき氷が解けない謎が気になってきました」  私は少し考え込みながら言った。窓の外を流れる街並みが、いつもよりも静かに感じる。タクシーの中にこもる会話の緊張感が、妙に心地よい。 「そうでしょう。審査員全員が驚きましたよ。こんなことがあるなんてね」  私はしばらく無言で運転し、ふとある可能性に思い至る。そして、何気なく質問を投げかけた。 「もしかして……お客様、そのかき氷、いちご味だったのでは?」  ミラー越しに、乗客の目が見開かれるのがはっきりとわかった。彼の表情には明らかな驚きが浮かんでいる。 「そ、そうです! いちご味でしたが……なぜそれがわかったんです?」  私は微笑みながら、トリックの核心に触れる。 「お客様、いちごにはポリフェノールが豊富に含まれているんです。このポリフェノールには、液体が凍結している状態を長く保つ作用があると言われています。つまり、いちごポリフェノールが、かき氷を溶けにくくしていたんです」  乗客は、しばらく言葉を失っていたが、やがて納得したようにうなずく。 「そんなことが……全然知らなかった。そうだったんですね、だからあの店のかき氷は……」 「はい。見た目はシンプルでも、科学の力を使って他の店とは違う特徴を持たせていたんです。それが観客の心を掴んだ理由かもしれませんね」  タクシーは静かに目的地に近づいていた。私はルームミラー越しに再び乗客を見やる。彼はまだ何かを考え込んでいるようだったが、少し安心した表情を浮かべている。 「お客様、目的地に到着しましたよ。そして、小さな謎の答えにも」 「いやあ、ありがとうございました。まさかタクシーでこんな謎解きができるとは思いませんでした」  私は笑顔で答えた。「タクシーには、いろんな話が集まりますからね。次の目的地までには、また何か新しい話を聞けるかもしれません」  乗客がタクシーを降り、街の喧騒に消えていくのを見送りながら、私は静かにアクセルを踏み直した。  街にはまだ無数の謎が転がっている。さて、次はどんな話が聞けるだろうか? 私は、それらを一つ一つ拾い上げながら走り続ける。副業の探偵として。
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