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幸せの予感
ネオンが輝く繁華街の一角。夜になると、飲み会帰りの乗客を期待して流しをしていた私は、歩道に立つ一人の男性が手を挙げるのを見つけた。酔っている様子ではあるが、足元はしっかりしている。
「どちらまでですか?」
「えーと、楠駅の方まで頼むよ」
「かしこまりました。メーター入れますね」
車内に乗り込んだ男性は、酒の勢いもあってか、すぐに饒舌になった。私は適度に相槌を打つ。
「それにしても、自衛官は大変ですね。国家公務員なんて、ちょっとしたことでも批判されますから」
私は当たり前のことを言ったが、相手の反応は違った。
「そうなんですよ……。え、今なんと?」
「だから、自衛官も大変ですね、と」
「あれ、職業の話してませんよね? どうして分かったんです?」
「歩き方ですよ。自衛官独特の歩幅や姿勢が目立ってましたから。歩幅は75センチ。歩く速度は1秒に2歩」
男性は驚いた様子で目を見開く。
「いやぁ、探偵か何かか? まるでワトソンの職業を言い当てたホームズみたいじゃないか」
その言葉には、少し照れくさいが嬉しさも感じた。ホームズと比べられるほどの推理力は持ち合わせていないが、それでも悪い気はしない。
「あなたになら、この謎が解けるかもしれません」
急に真剣な表情に変わる男性に、私は軽く肩をすくめて答えた。
「買いかぶらないでください。ただ、話を聞くだけならできますよ」
「それでもいいんです。とにかく話を聞いてください」
男性は深く息をつくと、語り始めた。
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