幸せの予感

2/3
前へ
/20ページ
次へ
「私は自衛官です。まだ入隊したてなんですが、仲間との付き合いもあって、こうして飲み会に参加することが多いんです。帰りはタクシーを使います。それが一番安全ですからね。居眠りしちゃっても、運転手さんが起こしてくれますし」  私は頷きながら、彼の話を続けるよう促した。 「ただ、それが少し問題でしてね。飲み会がある日は、妻がいつもどこかへ出かけているんです。不倫かとも思ったんですが、どうやら違う。隣の竹本さんに聞いたところ、妻が出かけるときの服装は地味なんです。不倫ならもっと着飾るはずでしょう?」 「確かに、そうかもしれませんね」 「それに、私の誕生日も近くないし、プレゼントを準備しているわけでもなさそうだし……」  男性は首をひねりながら続けた。 「でも、どうも気になるんですよ。何か秘密があるんじゃないかと」 「他に、何か気になる変化は?」 「そうだなぁ……そういえば、ここ最近、妻が急に匂いに敏感になったんです。香水とかの匂いも嫌がるようになって、あと、食事の好みも変わったんですよ。普段はそんなに好きじゃなかった酸っぱいものばかり食べたがるようになって」  その瞬間、私の頭に一つの答えが浮かんだ。だが、この場で彼にその真相を告げるのは躊躇われる。これは本人から直接聞くべきことだ。 「謎は解けましたが、私から言うのは憚られます」 「なぜですか?」 「奥さんから直接聞くべきだからです。大事なことですからね」  男性はしばらく黙った後、ため息をついた。 「わかりました。でも、どう聞けばいいのか」 「『嬉しい知らせがあるんじゃないか』と聞いてみてください」
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加