第二話 振り袖姿の一見さん

8/10
前へ
/22ページ
次へ
「お待たせしました。キンメダイのお頭の煮付けです」 俺はそう言って、信楽焼きの湾曲した皿に盛った熱々の料理を差し出した。 「そして、こちらが、オススメの灘の酒です。芳醇な旨口です」 そう言って、今度は燗をした錫製のちろりと、有田焼のぐい呑みを差し出した。 「うわー! お料理もお酒も美味しそう!」 そう言うと、その女性は少しその身を乗り出して、大きく息を吸った。 「良い香り……」 女性はその煮付けから慣れた手つきで目玉を丁寧に取り外すと、それを口に運んだ。 「プルプルで美味しい! コラーゲンたっぷりですね。明日、お肌がツヤツヤになりそう! ありがとうございます」 そう言って日本酒に口をつけた。 「このお酒も美味しい! 濃い味の煮付けの旨みと、この麹のふくよかな香りが組み合わさって……。濃厚なコラーゲンの旨みに、お米の香り、これはまるで、うな重のような高級感ですね」 そう言われて「なるほど」と納得してしまった。そんな考え方もあるのか……。確かに、言い得て妙だ。魚の旨みに米の香り、日本人にはこれだろう。そう、それは日本人のDNAに刻み込まれたカルチャー。遺伝子レベルでその組み合わせを旨いと感じるのだろう。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加