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今度はその女性がキンメダイの頭の肉に箸を付けた。そして、頬に色白で綺麗な手を当てて言った。
「ホロホロしてる。煮汁がしっかりと染みてて、口に入れた瞬間に、その肉の繊維がほどけて、旨みとともに口いっぱいに広がってゆく……。落とし蓋をして八分、蓋を取って煮汁を回しかけながらさらに一分、ってところですか? あと、最後に醤油を追加で回しかけていましたよね。風味付けですよね! 凄く美味しいです!」
完敗だった。もはや俺は丸裸だ。何の隠し事も許されない。そう、完敗だ……。思わず心の声が漏れてしまった。
「お嬢さん、凄いですね。こりゃ参った」
俺が笑いながらそう言うと、その女性も照れくさそうに笑った。
「わたし、今日はちょっと飲み過ぎちゃったのかもしれません。喋りすぎました」
普段、俺は客のプライベートに立ち入った質問をしない。しかし、その時は例外だった。この、ただ者ではない女性への好奇心を抑える事ができなかった。間違いなく逸材だ。そんな人間をみすみす謎のまま帰したくはなかったのだ。彼女の「喋り過ぎた」というその罪悪感を利用して、俺は質問をしてみた。
「お嬢さん、魚と酒に詳しいみたいですが、どこかで勉強したんですか?」
「勉強だなんてそんな」
可愛らしい笑顔でぐい呑みを両手に持ちながら彼女は答えた。
「好きなんです。両方とも」
なるほど、とは思えなかった。「好きこそ物の上手なれ」なんて言うが、説得力不足だ。まだ何か出てくると思って、俺は掘り下げた。
「へえ、そりゃあ凄い! 普通、好きってだけでそこまで詳しくなれないですよ」
「実は……」
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