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これまた照れくさそうに、その女性はぐい呑みを傾けてから言った。
「祖父の代まで魚屋の家系だったんです」
「ハハッ、こりゃ参ったな! なるほどな!」
俺は声を出して笑ってしまった。
「ちょっと、笑わないで下さいよ! わたし、恥ずかしくて気にしているんですから」
その言葉の真意は俺には分からなかった。
「いや、失礼。でも、お嬢さん、恥ずかしがる事はありませんよ。私なんかには羨ましい話ですよ」
「そうですか? わたし、お酒を覚えるまでは魚って嫌いだったんです。食べ飽きてたって事もありますし、そもそも生臭いし……。生臭い女性なんて、モテないでしょう?」
そう言うことか、と、またまた笑ってしまった。
「ちょっと、笑わないで下さいって!」
「これまた失礼。でも、そこから先は察しがつきますよ」
そう言って俺は続けた。
「成人になって美味しいお酒に出会って、魚がそれに合う最高の肴だって事に気が付いてしまったんでしょう?」
「まあ、そうですね。って、今の、ダジャレですか?」
彼女と俺は笑った。その後彼女はその灘の「男酒」をもう一合飲んだ。その熱燗が少し冷えてきた頃に俺は言った。
「お嬢さん、ここでのアルバイト、興味ないかい?」
漁師の息子と、魚屋の孫娘。そんな二人が魚料理を売りにする小料理屋で働く……。これは面白い事になると思った。
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