第三話 うっかりミス

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今までひとりで営んできたその店も、アルバイトを雇うとなると、試行錯誤の連続だ。常に業務を改善し、同じミスが起こらないように工夫を重ねていく。 「それより、苗字で呼ばれると、何だか背中がむず痒くなるんだ。名前で呼んでくれないか?」 言ってから気が付いた。これはセクハラになるのだろうか……。俺は苗字で呼ばれるのが好きではない。窮屈なサラリーマンだった時代を思い出させるからだ。 「分かりました。じゃあ『治さん』でいいですか? さすがに常連さんみたいに『治ちゃーん』とは呼べないので……」 「さすがに『治ちゃーん』って言わせたりはしないさ」 俺は笑って言った。すると、彼女も先ほどの神妙な面持ちから一変、笑顔の花が咲いた。立ち直りが早いのも、美月さんの良いところだ。雑務を喜んでテキパキとこなしてくれるのも有り難かった。  開店前の清掃や忙しい時の皿洗いなど、自ら仕事を見つけてくれる。着物姿じゃあ大変だろうに、袖が汚れないようにたすき掛けなんかをして、上手くやってのける……。大変助かっている。
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