第三話 うっかりミス

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「治ちゃーん、今日も来ちゃったよ!」 常連が四人、やってきた。大学時代からの友人だ。親しみを込めてお互いに「腐れ縁だ」なんて言い合うくらいに気心の知れた連中だ。俺が案内する前に、その四人は一番奥のテーブルの椅子にドカッと座り、開口一番に 「治ちゃん、いつもの!」 と言った。俺は、それに応じてホッピーセットとお通しをそれぞれ四つ用意した。その間に、美月さんはおしぼりをテーブルに運んだ。 「お姉さん、美月さんだよね。お仕事、だいぶ板についてきたんじゃないの?」 「ありがとうございます!」 美月さんは常連の言葉に頬を赤らめて照れくさそうに笑うと、すぐにこちらに戻り、お通しとホッピーセットを四つ、そのテーブルに運んだ。お盆に乗せるには限界の量だろうが、こなれた手つきでやってのけた。学習が早い子だ。 「さてさて、今日のお通しは?」 俺はこの常連のリアクションが好きだ。奇妙な食べ物を目の前にして不思議そうな顔をする、その反応だ。事前に伝えておいたとおり、美月さんが言った。 「これは、ウッカリカサゴの胃袋の酢味噌和えです」 「げげっ、胃袋だって?」 常連のひとりが驚いた。そうそう。その反応だ。毎回、これがたまらない。
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