3人が本棚に入れています
本棚に追加
──振り返ればそこには、描きかけの世界の切れ端が降り積もって山になっている。それに手を差し込んで色を灯そうにも、すべてを塵芥として捨て去ろうにも、俺は決心がつかない。そのときの熱は確かに胸のうちにあるのだ、無に帰すには惜しまれる。
前を向けばそこには、まだ誰も踏み入ったことのない新雪のような白が広がっている。だがそこには超えるべき山がいくつもある。山の大小はさまざまだ。だがひとつ言えるのは、山はみな一様にして白い。曇りも澱みもないひたすらの白が広がっている。
振り返っても山、先を見据えても山。
どちらを選んでも果てのない世界が広がっている。
描きかけの世界に色をつけるのか、捨て去るのか。
未踏の山に足を踏み入れるのか。
決めるのは他の誰でもない自分なのだ。
山を超えることを誰かに委ねるのは許されない。
ならばどちらを選んでも、悔いのない道にするべきだ。
たとえ途中で足が止まってもいい。
道に迷ってもいい。
なにより『自分で選んだ道である』ことに意味があるのだから。
だからこそ、俺は今日も筆を執る。
自分自身に屈することのないように。
最初のコメントを投稿しよう!