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おじいさんは山へ死体を埋めに。おばあさんは川へ痕跡を隠滅に。
むかしむかしある山奥に、おじいさんとおばあさんがおりました。
おじいさんは山へ死体を埋めに。おばあさんは川へ痕跡を隠滅にいきました。
おじいさんが山で穴を掘り、死体を二体、埋めていると、近くで子どものすすり泣く声が聞こえてきました。
同じ頃、おばあさんが川で痕跡隠滅をしていると、川で溺れていて必死に助けを求める声が聞こえてきました。
山奥の外れにひっそりと佇む我が家に、おじいさんは泣いて困っていた子どもを、おばあさんは川から助け出した子どもを、それぞれ連れて帰ってきました。
長年ふたりの子どもができず悩んでいたおじいさんとおばあさんは、その子どもたちにそれぞれヤマオ、カワミ、と、ふたりが見つかった場所にちなんだ名前をつけ、その子どもたちを自分たちの本当の子どもとして、育てることにしました。
それから十年。
夫婦仲良くお茶をすすっていたおじいさんとおばあさんの前で、すっかり大きくなったヤマオとカワミがなんの前触れもなく言いました。
ヤマオは、猟銃をかまえています。
「あなたたちが、私たちの両親を殺したのね」
おじいさんもおばあさんも訳がわからず、ただ暗い表情で自分たちを見据えるヤマオとカワミを、呆然と見つめておりました。お互いが犯した罪など、すっかりと忘れていたのです。
「お前らは、山賊だ。本来この家は俺たち両親の家だった。あの日、お前らはこの家を白昼堂々この猟銃で襲撃し、両親を殺害して、それぞれの死体を山へ埋め、その痕跡を川で洗い流した」
「あの日、私たちはすべてを見ていたのよ。両親が殺された時、私たちはこの家の奥に息を殺してひそんでいた。そしてその瞬間、決意した。いつかあなたたちに復讐すると。そうしてあの日、無関係な子どもを装い、あなたたちに近づいたのよ」
ヤマオはなんのためらいもなく、猟銃の引き金を引きました。
こうして子どもたちは両親を殺し、家までのっとったふたりの山賊を倒し、無事十年越しの両親の敵討ちに成功したのでした。
めでたしめでたし。
※
「……というお話だ」
父が本を閉じた。
「いいか。父さんたちが代々仕事を請け負っているのは、今の話にでてくるようなおじいさんとおばあさんのような善人ぶった悪い奴らを一掃するためなんだぞ」
聞かされた子どもはただ唖然としていた。
いくら先祖代々続く暗殺業の家系だからって。
子どもに夜寝る前に読み聞かせる昔話まで、そっち方向にリメイクする必要なんて、ないじゃないか。
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