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プロローグ
ブルームーン。
それはカクテルの名前。
あなたが私に作ってくれた
たった一つの思い出。
10年前に偶然、旅先の函館で入ったショットバー。
そのカウンターにいた私より
ひと回りは上に見えた
無精髭が印象的なバーテンダー。
名前も歳も個人的なアイデンティティなんて
一つも知らずに恋心だけを残した人。
「旅行ですか?」
「ええ」
薄暗いバーのカウンターで
ジャズの響きの中に溶け込む声。
「マティーニをお願いします」
「かしこまりました」
煙草に火をつけて蒸した白い魂の向こうで
微かに微笑んだ気がした。
函館は初めてだし
記憶の片隅にもないけど
私のことを知ってるのだろうか?
そう思わせる微笑みを見せた彼。
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