死の宣告

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8660f371-19e4-4f99-88dc-a9a1f163ddb4 妹の手を引いて夕陽が差し込むアパートの玄関から異世界にでも吸い込まれて行くみたいに消えた父親。 余り家に帰ってこなかった父親。    だから今ではその面影(おもかげ)さえも     私の中にはない。        茉莉子、元気でな。 低くて温かい声がした。 「お姉ちゃん、もしかして夜の仕事?」 「うん。お父さんは?」 「うちが結婚してからは会ってない」 「そうなんだ」 「うん。噂じゃ北海道に新しい奥さんといるみたいなこと聞いたけど。今何処にいるか知らん」 一瞬で過去に戻るかと思ったけど     妹の余りの変わりように      そんな感覚とは程遠い     初対面の人と話してるようだった。 「今何処におるん?」 「ザッショ【雑餉隈(ざっしょのくま)】。会社がこっちだから」 「お姉ちゃんは?」 「春吉(はるよし)」 「仕事に戻らんといけんから番号だけでも」 「あ、うん」 そして携番だけ交換して別れた。
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