唯、日の出

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唯、日の出

 私はとある山を登った。道はずっと砂利道で、ゴロゴロと岩肌が見えるその山をひたすら登った。月は私の後ろへと沈んでゆく最中だった、ゆっくり、ゆっくり落ちてゆく。  少しゆくと、少しずつ日に照る山の輪郭が私の周りを覆い、背後の月はこの朝日に照らされてその白い兎の面を曙色(あけぼのいろ)に染め上げてすっと、空の色と同化してゆく。  もう少しゆくと、山の頂がもう五メーターもない所まで来て、私が動かすこの足が頂へと近づくたびに、目の前に太陽がその輪郭に溶けたようにぼんやりと(いずる)それは、ただゆらゆら燃えた。その色は、先程の曙色から赤香(あかこう)へと変わってゆき、それがぎらぎらとしながら優しく、私が足を進めるたびに照りつけた。  ようやっと、私の体の前面をそれが照りつけると、この山の前には海が広がっていることを知った。私はそれを見つめていると、そのぎらぎらがさらに波に映った。波のウェーブに乗るその麗らかな装飾は西洋のドレスさながらだった。  私はそれをただ感嘆して見ていると、赤香はよく見る白へと変わり、空の青さを良く際立たせ、ずっと真南へ向かい南中の時を目指して行った。  私はこの光景の(はた)に聞き覚えのある、大きな音がするのを認識し始めた。目を閉じて、もう一度目を開くと、自室のベットで横たわっていた。  もう少し経って、ぼんやりとする意識の中でカーテンの方へ目をやった。朝日を浴びようとベッドから床に足をつけ、カーテンを両手でゆっくりと開ける。窓の向こう側で太陽が南中の時を迎えていた。  私は寝坊した。
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