第一章『親の居ぬ間に』

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 夜中十時を回り、不貞腐れた洸姫を連れて天彦が夏祭りから帰宅した。  と言っても二人きりで帰って来た訳ではなく、雪之丞と一緒だった須藤くんの運転する車での帰宅だった。  裏門で玉彦と一緒に帰りを待っていた私はホッと安堵の溜息を吐く。  洸姫の事だから田村さんの家に無断外泊を強行するかもしれないと思っていたのだ。  でもどうやら天彦に捕獲されて強制送還となったようだ。  その証拠に、浴衣には似合わないリュックを背負っている。  お泊まりの準備は万端だったのに詰めが甘かったらしい。  そもそも天彦というか、須藤くんの手から逃げられるはずもないし、お祭り会場には南天さんもいるのですぐに捕獲されたことだろう。  ちなみに澄彦さんは逃がす側に回るだろうから全く当てにはならない。  洸姫は解りやすいほど不機嫌で私たちにただいまの挨拶もなく横を通り過ぎて玄関を上がり、猛ダッシュで母屋へと走って行った。  その後ろ姿を見送って、私は天彦とウトウトしている雪之丞を腕に抱きかかえていた須藤くんに声を掛けた。 「おかえりなさい。大変だったでしょ、色々」  そう言って洸姫が走り去った方へ目を向ければ、須藤くんは小さく笑った。 「あっちに居た時も毎回豹馬と多門に反対されて、お泊まりはあんまり出来なかったから慣れっこだと思うよ」 「そうなの?」 「うん。だから友達を家に呼んでお泊まり会をしてたんだ。中学生になったら好きにして良いよって言ってたんだけど僕たちから保護者は戻ったわけで、お約束はリセットされたとさっき車内で話したんだけど」 「だからあんな感じなのね。その話、もう少し早く聞きたかったわー」  玉彦もお泊まりへ行くのは反対だけれど、お友達を屋敷に泊めるのは反対しなかっただろうに。  玉彦と顔を見合わせて、それから二人で肩を落とした。
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