第一章『親の居ぬ間に』

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「俺も屋敷に居る予定である。父上が祭事会場に居るならば、二手に分かれておいた方が良い」 「二手って……」 「恐らくこの祭り期間に何かが起こる。鈴白なのか五村のどこかなのかは解らぬが、必ず」  そう言えば澄彦さんも玉彦もそんなことを言っていた。  面倒な物事が起こりそうって。 「じゃあ鈴白は澄彦さんが担当で、玉彦は他の村に何かが起こったら出向くって訳ね。まぁ、藍染は一つ、何かがあるかもだけど。でもお祭りの後だし、カウントされないかしら」 「はたして呑んだくれている父上が使い物になるかどうかは解らぬがな。藍染の猩猩の事案は天彦に任せておけば問題はない。間違っても余計な手出しはするなよ?」 「余計な手出しって何よ。そもそも私に持ち込まれた事案で、天彦と竜輝くんは保険的な感じでしょうよ」 「そう考えているのは比和子だけで、父上も俺も、天彦も竜輝もそうは考えておらぬぞ」 「えぇ……そうなの? 久しぶりに私が大活躍できると思ったのに」 「比和子が大活躍する場合など、面倒しか起こらぬ。ゾッとしたぞ、今俺は」  ワザとらしく身震いして横目で見た玉彦に軽く頭突きをかまし、私も仰向けになった。 「こうやって天彦は一人立ちしていくんだねぇ。なんていうか、寂しい。まだまだ子供のままでいてほしいなー」 「成人の儀を終えたのだからそうも言ってはいられまい。親の我らがどう思っていようとも、子である天彦は巣立ちたくて疼いている」 「そう? 疼いてる?」 「……祭りが終われば比和子にも話は行くであろうが……、子離れせねばならぬ時は近いぞ」  玉彦はそう言って本日二度目、目を細めた。
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