第一章『親の居ぬ間に』

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「まぁ、なるようになるかぁー」  独り言ちて縁側で黒猫のクロと寝そべっていると、不意に襖が叩かれて私は身を起こした。  足音が全くしなかったから稀人の誰かだろうと思いつつ、どうぞと声を掛ければ、須藤くんが顔を覗かせた。  須藤くんは今回お祭り組で、澄彦さんと南天さんと鈴白神社での待機になっていて、夜の宴会までは息子の雪之丞とお祭りを歩く予定だ。 「来客です」 「え、私に? 誰?」  私を訪ねて来るような人たちはさっきの誕生日会で顔を合わせている。  猩猩の鳴丸が急かしに来たかとも思ったけれど、猿助に何かあればスマホの方に連絡を入れるように言ってある。  はて? と首を傾げれば、須藤くんも不思議そうに首を傾げた。 「それが……蔦渡のとこの息子。一人で来てるんだよ。上守さんに会いたいって」 「蔦渡くんのとこの? あー、一太(いちた)くん」  蔦渡くんは私や玉彦と同級生で、その息子である一太くんは天彦と同級生。  洸姫が転校して来るまで、天彦と一太くんはいつも一緒に遊ぶ親友だった。  けれど中学二年生になってクラスが離れ、一太くんは天彦の頼みで洸姫の面倒を陰ながらみてくれていた。  天彦と仲良くしていると洸姫が警戒するから最近は出来るだけ接触しないようにしている徹底的ぶりだ。  一太くんは父親の蔦渡くん同様に部活で野球に励んでいるから、自然と天彦と距離を置きやすかったのもある。 「私に用事なのね? 天彦でも、洸姫にでもなく」 「上守さん御指名」 「あー……。うん。はいはい。なんかちょっと思い当たることあるわー……」  ぐーっと伸びをしてから私は立ち上がった。
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