第一章『親の居ぬ間に』

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 私は何となくの予感を胸に、須藤くんと離れへと向かい、事務所の中で身を小さくさせて座っていた一太くんに声を掛けた。 「一太くん」  私の登場に一太くんは飛び跳ねるように立ち上がり、今にも泣き出しそうな顔をしながら頭を下げた。 「聞きたいことがあって、来ました。話がしたいんです」 「うん、うん。いいわよ。私で良かったらいくらでも話は聞くし、相談にも乗ってあげるわよ。ここじゃなんだからちょっと場所を変えましょうか。二人きりの方が良いわよね」  と私が言うと、後ろを付いて来ていた須藤くんが表情を曇らせた。  いや、私ももういい歳だからね? そんなに心配しなくっても大丈夫よ? 暴走はそんなにしないわよ? 「上守さん……」 「言いたいことは解るけど、心配し過ぎよ」  私は渋る須藤くんを何とか宥めすかし、一太くんを連れて裏門を出た。  須藤くんは私たちが五村道へ向かうのを裏門からずっと見送っていた。  私の後を大人しく付いて来る一太くんの足取りはこれでもかと云うほど重い。  こちらの歩調に合わせているのではなく本当に重い。  まぁ、私の予想通りの相談内容なら、仕方ないかなと思う。  無言でしばらく歩いて、私は上守家を見下ろせる場所に設置してある二人掛けの簡易な背凭れの無い木のベンチに腰掛けて、隣の席に座りなさいと座席を叩いた。  このベンチは玉彦のお手製で、たまに二人で散歩した時に休憩できるようにと置いたものだ。  いつもは玉彦が私の左側に座るが、今回は私が玉彦の特等席に座る。  右手に項垂れる一太くんを見て、私は何だか自分が中学生に戻ったような気がした。  一太くんは体格も良く、五分刈りで、彼の父である蔦渡くんに雰囲気がそっくりだからだ。
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