第一章『親の居ぬ間に』

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「天狗って解って、引かなかった?」 「いやぁ-、引くどころか納得しちゃったわよ。だってね、蔦渡くん、凄いボールを遠くまで投げられたりすんのよ。運動神経も馬鹿みたいに良かったし。本気で野球選手目指せばイケると私は思ってたわよ。でも結局家業継ぐって言って野球は草野球になっちゃったし、もったいないなーって思ってた。あとはそうねぇ。ここだけの話、楽でいいわね」 「楽?」 「そう、楽。五村のあやかしに聞きたいことがあったら、とりあえず蔦渡くんに聞いて、それでも解らなかったら取り次いでもらってもらったりとか。他のあやかしだと何が地雷か解らないけど、蔦渡くんだったら気心も知れてるし、何よりも人間だから常識が通じるでしょ」 「人間って思ってるんだ……」 「当ったり前じゃないの。ようく考えて見なさいよ。十四やそこらまでは人間で、そこから人間と天狗になるってことはよ? どんだけ年を取っても十四年は人間生活が長いわけよ。っていうことは人間よ、間違いなく」 「言われてみればそうかもしれない」  へへっと一太くんは年相応の笑顔を見せた。 「それとね、私も天彦の父親の玉彦も、っていうか玉彦なんて小学生から高校まで一緒だったのに、あ、私は高二からなんだけど、全然蔦渡くんの秘密に気付かなかったのよ。玉彦なんて未だによ? あんなに勘が鋭いのに。だからこの先、君が天狗を選択しても天彦は絶対に気付かないわ」 「そうかな……」 「天彦が気付かないなら他の人も気付かないだろうし、何よりも正武家の人間が気付かないなら誰も気付きようがない秘儀みたいなのが天狗にはあるのかもしれないわね」 「それはどうなんだろ……秘儀かぁ」 「秘儀って響き、良いわよねぇ。ともかくそれは天狗になったら明かされるのかもね。でも案外ないのかもだけど」  私がそう言うと一太くんは再び笑顔になった。
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