第一章『親の居ぬ間に』

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 五村道を抜けて、一太くんと上守家前で別れると、私は歩きなれた道を一人で歩く。  夏。  この時期。  正武家屋敷の石段を目指して歩いていたあの夏休みを思い出す。  そして今、そんな青春を味わっているのは天彦や洸姫なのだろう。  あの夏が懐かしいと思うけれど、戻りたいとは思わない。  だって怖かったし。  どうか双子たちにはそんな思いをする夏休みじゃなければ良いなと思う半面、きっと何かが起こるという澄彦さんと玉彦の半ば予言めいた言葉に苦笑いしか浮かばない。  そんなことを考えながら石段下までたどり着くと、玉彦が腕組みをして待ち構えていた。  私の行動なんてお見通しのようだ。  私の手を取り、石段を上る玉彦は一太くんと何があったのか野暮なことは聞いてこない。  必要があれば私が話し出すだろうというスタンスだ。  なので私も話さない。  だって一太くんは私を信用して来てくれたのだし、蔦渡くんとの約束もある。  夫婦だからといって何でもかんでも知らなくちゃいけないなんてないのだ。 「母屋で洸姫が捜していた」 「あら。何かしら」 「今夜、友人の家に泊まりたいそうだ」 「そんなことだったら玉彦でも答えてあげられるでしょ」 「否、と言った。不服だったらしく、母様に聞くと息巻いていた」 「あーらら。じゃあ私も否、ね。何か考えがあっての否なんでしょ?」 「うむ。年頃の娘が泊まりなど罷りならん」 「え、そこなの!? 私はてっきり……」  危険な目に遭わないようにとかそんな感じだと思っていたのに。  玉彦の過保護っぷりに呆れていた私だが、夜中、やはり玉彦の判断は正解だったと痛感する出来事が起こったのだった。
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