序 章

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 七月最終日。  面倒事を五村道で抱えた私は、猩猩である鳴丸を(ねぐら)の猩猩屋敷へと一旦帰るように指示をしてから名もなき神社へと向かった。  父の弟である光次朗叔父さんから婿の緋郎くんの神職修行が始まる連絡を受けてはいたが、私がその初日に立ち会う要請は受けていない。  にも係わらず私が向かっているのは、緋郎くんに自分がお世話をする今代の神様の御倉神を紹介する為だったのだが、ちょっと雑事が増えたので時間があまり無く、紹介は後日にしようと思う。  それと、光次朗叔父さんが上守家として代々受け継いできた名もなき神社の謂れを口上で緋郎くんに伝えるのを拝聴するためでもある。  名もなき神社の謂れや神職の職務内容は簡単なことであれば覚書があるのだが、肝心の核心に迫るようなものは全て口伝で残されていた。  これは神守の眼を持つ者にも共通しており、代々上守家は口伝で残すのがセオリーのようだ。  お祖父ちゃんや光次朗叔父さんは名もなき神社の神職として職務を全うしていたが、その職務の口伝には神守の眼については曖昧なものしか残されていないのを私は確認していた。  それは眼を発現した者にだけ伝わるように別の物が残されていたからだ。  眼を持つ者にしか視認できない巻物、それは現在私が所有している。  時が来れば再び名もなき神社にて保管する予定なのだが、なにせ巻物の中身が達筆すぎて解読が中々進まず、すでに数年過ぎてしまっているのが現状だ。  せめて玉彦に視せることが出来れば解読はあっという間に終わるのだろうが視えないし、私が書き写して解読してもらおうともしたのだけれど、そもそも読めない文字の、しかも書き崩してある文字だから、一人しか介していない読み書きの伝言ゲームなのに、全く正解に辿り着かなかったのだった。
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