序 章

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 名もなき神社の口伝に神守の眼について語られることは少ないが、こういう機会でも無い限り、しっかりと聴けるタイミングもないので、今日はメモ帳まで持参している。  のだが、さっき猩猩の鳴丸からお願いされた事案がどうしても気に掛かってしまい、私の頭の中は取っ散らかっていた。  猩猩の頭である猿助がお祭り前の神社裏に保管されていたお人形のお炊き上げの中から、妙なモノを拾って、猩猩屋敷で痛い目に遭っているらしい。  仮にも猩猩というあやかしの頭なのだから何とか出来そうなものであるが、元凶と思われる人形がちょっと気味が悪かったのがどうしても引っ掛かる。  三十センチほどの羊のぬいぐるみで、顔と四つ足の部分が黒いタイプの可愛らしいぬいぐるみのはずなのだけれど、お腹の部分が切り裂かれていて、中身の綿が(はらわた)のように飛び出していた。  そして黒い靄が纏っていたことから、何か曰く付きなのは確かなのだが、それ以外にも私が気持ち悪いなと感じた部分があった。  それは白い羊のぬいぐるみには、点々と赤い何かが付着していたのである。  時間が無かったものだから、ぬいぐるみの検分はしていないが、ぱっと見、血のように私には見えた。  ぬいぐるみの腹を裂いても血は出ない。なぜならぬいぐるみだから。血液が通っていないから。  殺人現場に残されていたぬいぐるみと言われれば納得するけども、五村でそんな事件は起きていない。  とすれば、痛い目に遭っている猿助のものとも考えられる。
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