第一章『親の居ぬ間に』

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「そんな訳で、近いうちに猩猩屋敷へ行こうかと思ってるのよ。それほど濃い靄じゃなかったし、天彦と稀人がとも思ったんだけど」  と、天彦を見れば、やはり首を横に振ってから澄彦さんに膝を向けた。 「当主が()けと仰るならば天彦は参ります。神守の母上に頼まれても、自分で判断するのは早計と思い一度断りました」  しっかり者の天彦の言葉に澄彦さんは頷き、腕組みをする。 「そうだなぁ。一度天彦も猩猩屋敷へ行ってみるのもいいかもしれないなぁ。祭りが終わったら、竜輝を伴に神守と一緒に出向きなさい。竜輝が居れば猩猩の頭も無下には出来ないだろうし」  そう、竜輝くんの曾祖父である九条さんに刻まれた痛い目を猩猩の猿助は未だに覚えているので、他の稀人にはちょっと舐めた態度の猿助だけれど、南天さんや竜輝くんには上を下への丁重な扱いをする。 「承知致しました。では祭りの翌日、母上と竜輝と向かうことに致します」  垂れた天彦の(こうべ)に玉彦が軽く手を乗せ、柔らかく目を細めたのが印象的だった。
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