第二章『猿助の恐怖体験 弐』

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 神守の眼の第二段階と私たちが呼称しているのは、外部と遮断されたある程度密閉した空間を神守の眼の中の世界と同じ状態にすることである。  神守の眼の中の世界は精神世界のようなもので、私が相手方の中へと入り込むのだが、眼の力により私の精神世界が基準となって、その世界を支配する。  相手の精神にお邪魔して乗っ取っている感じだ。  この精神世界では私以外、自身を偽ることは出来ない。私に問われて答える言葉に嘘は言えない。  そして私が望む物や者を手にしたり、呼び出すことが出来る。  ただし、呼び出せる者は一部例外を除き鬼籍に入っている者で、私と面識があるか所縁がある者に限られる。  だから例えば過去の偉人の織田信長に会いたいと呼び出そうとしても呼び出すことはできない。  それと一応呼び出される側にも良く解らないけれど、上の世界での事情ってやつで拒否権があるらしい。  その場合は誰も召喚されないか、私の呼びかけに気が付いた者が暇潰しがてらやって来る。  私の経験上、呼びかけて必要な人物が来てくれなかった時には、蔵人(くらんど)や雪之丞さんが必ず来てくれていた。必要な人物を上の世界で捕まえて連行して来てくれることもあるので大変助かっている。  眼の第二段階はこの第一段階の状態をそのまますっぽり閉鎖された空間に展開する。  呼び出したい人物が強い拒否を日頃から持っていない場合は強制的に呼び出されてしまうので、注意が必要である。  強制的だと揉めることもあり、私は以前水彦を呼び出してしまい小一時間説教を喰らった。  眼の中と大きく違うのは、私が身体の意識を失わないというところ。  眼の中に入ってしまったら、意識が無い身体の安全を必ず確保できる場所でなくてはならないが、第二段階では生身の身体ごとなので場所を確保する必要はない。  その代わり空間内では生身の身体なので危険度は増す。  今日は竜輝くんと天彦が一緒なのであまり心配はしていないのが本音だが、念には念をいれた方が良いだろう。  熱を持った眼を閉じ大きく柏手を打って、身体に何とも言えない重力の負荷を感じた瞬間、私は言った。 「私以外は動けない」  閉鎖空間を支配する私の言葉が電気が走るように天蓋の中を走り抜けたのがわかった。
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