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「え? ウソ! ユツキ付き合ったの?!」
教室中に声が響いた。
朝、こっそり親友のひまりにだけ打ち明けたつもりが。
周りの女子たちが「河本さんが誰と?」と寄ってくるほど。
男子も遠巻きで聞き耳を立てている気配。
1月の寒さの中で優月の頬は春が訪れたように桜色だ。
「相手はうちの学校じゃないよ。ほら、グレーの制服で頭のいい男子校の…」
芸能マネージャーのごとく説明するひまりは時々デリカシーに欠ける。
誰とでもすぐ打ち解けて、自然と輪の中心にいるのは尊敬ものだけど。
「な~んだ、うちの学校じゃないのか」
相手が他校の生徒と知って皆の興味が薄れはしたが。
それを盛り上げるのもまたひまり。
「ユツキにカレシができたなんて、悲しむ男子がいっぱいいるねぇ」
「そうそう、去年コクられてたよね、2組の田中くんに」
「上級生から呼び出されてるのも見たことあるよ」
「全部断ったってホント?」
「だって…よく…知らない人だったし…」
優月の小さな声はおしゃべりの波にたちまちかき消される。
「河本さん、おしとやかでかわいいし、男のコが守りたくなるタイプだもんね。ひまりと全然違う! キャハハ!」
「なんだとぉ~! あたしはテニスが恋人だっての!」
おどけた言い方で周囲はどっと笑った。
その時―。
「あ、俊太くんだ」
誰かが廊下の方を指さし、一斉に女子たちがその方向を見る。
隣のクラスの山崎俊太が教室の前を通ったのだ。
サッカー部のエースで、校内にはファンクラブまであるという人気者。
「おーっす、シュン」
ひまりは元気に声を掛け、俊太はニッと笑って返した。
「おぅ、ひまり」
それを皆ウットリ眺める。
「いいなぁ、ひまりは。あんなカッコいい人と幼馴染だなんて」
ひまりはまんざらでもないという感じ。
優月にとっても俊太はまぶしい存在。
ひまりの友だちとして何度か話す機会はあっても―。
普段はすれ違った時に会釈するのが精一杯。
俊太とひまりがふざけ合うのをうらやましく思って眺めていた。
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