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ぼくはお母さんが嫌いだ。
だって、うそつきだから。
「タカシ、クラスで一番背が高いんだってね?
30メートルかあ……
あーあ、もうすぐお母さんより大きくなるんだろうなあ。こいつめっ!」
恥ずかしいのにぼくをむりやり抱きしめる、鋼鉄より強くてゴムより柔軟な胸。
「あら、また『ほのおのはきかた』で怒られたの?きっと教え方が悪いのよ!先生に文句言わなきゃ!
タカシのプラズマ熱線は凄いんだから!まだ遠くに飛ばせないだけなの。自信を持ちなさい!お母さんは噓をつかないわ」
恥ずかしいからやめてよ、と言うぼくの頭のつのを撫でてくる銀色の手は優しいけど。
でも……ぼくは知ってる。
お母さんはうそをついてるって。
「ほらタカシ!イエローストーンの地底で取れた溶岩が安売りしてたのよ!たくさん食べてね!」
張り切ってキッチンに立つお母さんの後ろ姿。
すらりとした長い手脚。
赤いラインの入った銀色の体。
小さなお尻にはしっぽがない。
卵形のお顔の大きな目は、いつも光っていて黒目がない。お口も小さくてさ。
いくらぼくが成績が悪くたって分かるよ。
もう小学生だもん。
ぼくの手脚は太くて岩みたいにゴツゴツ。
指先には鋭いつめ。
背中に並んだ背びれは長いしっぽに続いてる。
目は黒目がちだし、口だってこんなに大きくてズラリと牙が生えてるんだ。
お母さんは超人フルパワマン。
ぼくは怪獣。
……ぼくは、お母さんの子供じゃない。
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