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二人の神が始めた「山将棋」もいよいよ詰みの様相を見せていた。
そのおかげで地球はズタズタになっている。
初めに神Aはいきなりエベレストを鷲掴みにして、南極大陸にドカッと置いた。
その遠慮も、気遣いもない掴み方でエベレストの形は崩れたが、高さは威風堂々と残っている。
その様子を見ていた神Bは、手刀でゆっくりとマッターホルンの底をていねいに切り取って同じく南極大陸に優しく置いた。
その時、宇宙から見ていた多くの神々のどよめきが起きた。
マッターホルンの美しさが圧倒的で、形が潰れ高さだけのエベレストに心を打たれるものはいなかった。
宇宙から降り注ぐ冷たい視線を感じて神Aはますます無愛想に、そして宇宙を威嚇するかのような遠吠えのあと一転、キリマンジャロを両手で優しくすくうように持ち上げ、エベレストの隣にそっと置いた。
宇宙から小さなどよめきが聞こえた。
あのガサツな神Aが遠吠えを発しながらもソフトに山の形を崩さないように置いたのだ。南極大陸に美しいままキリマンジャロが置かれた。
この山将棋にルールは無い。
勝ち負けはなんとなく「これは負けたな」と思った方が「マイッタ!」の声を上げて決着がつく。
南極大陸に置かれた美しいキリマンジャロを見て神Bは巨大で鋭利なナイフを富士山の広い裾野から差し込み、さらに巨大で薄い金属の板を入れ、富士山の裾野の形さえそのままに小さな山崩れも無く南極大陸に置いた。その繊細な動きは富士山の笠雲までそのままそこにあった為、宇宙から初めて大きな拍手が聞こえてきた。
美しい富士山を見て神Aは繊細路線に転向しようと決めたようで、中国の山水画のような美しい山々を間に流れる川と共に南極大陸に置いた。
富士山対山水画対決のようになり、宇宙で見ている神々は美の対決になりそうだと前のめりになっている。
神Bは勝負に出た。一気に三つの山々を出して畳みかけてきた。
「詰み」に入ったのだ。
しかも今まではなんとなく南極大陸が山将棋の舞台かと全ての神が思い込んでいたが、中国の天山山脈の先に吹雪で美しさが際立つ蔵王の樹氷を置き、さらにその右斜め前にK2を置いた。
そう、その位置はまさしく将棋の「桂馬」のようだった。
その美の三連弾に神Aはついに「マイッタ」の手を上げた。
神Aはこの後にノアの方舟が流れ着いたとされるアララト山を考えていたがこの「桂馬」の美しさに負けを認めたのだ。
しかし、二人の神の遊び心に選ばれた地球は見るも無惨な姿になっていた。
いくらそっと山を移動させたとはいえ元にあった場所は消え、自然界にいた動物と人間も多くが死んでしまった。
神Bは勝利を全宇宙に宣言し、喝采を浴びた。
そして宇宙に帰る前に軽やかなステップで地球をキックし、ブラックホールにシュートを決めた。
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