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「蒼!無事だったか!?」
車を降りた颯人は、駆け寄って蒼を腕にきつく抱きしめた。
彼女の優しい香りに包まれ、今まで荒れ狂っていた心が落ち着いてくる。止まっていた颯人の世界が再び動き出して、安堵でホッと目を閉じた。電話が通じなくなってからは生きた心地がしなかった。
「えっ?う、うん。無事だけど颯人さん達は大丈夫?どうしたの?そんなに慌てちゃって」
蒼はあどけないまるで子供のような無邪気な笑顔で颯人を見上げる。そんな彼女の頬を指で撫でながら、颯人は透き通った大きな瞳を覗き込んだ。自分だけが映し出されるその瞳に、颯人の胸は溢れそうなほどの愛で満たされる。
「いや、ずっと電話が通じなかったから……」
「あ、そうなの。実はスマホを噴水に落として水没させちゃって。壊れてなかったらいいんだけど……」
蒼はそう言いながら、未だ乾燥剤と一緒にジップロックの中に入っているスマホを颯人に見せた。彼女の悲しそうな表情を見ながら、颯人は朧げに薫の言葉を思い出して、すこし首をかしげる。
「……そうだったのか……」
「あ、それ私達の荷物!持ってきてくれてありがとう!」
蒼は嬉しそうにしながら、颯人が両手いっぱいに抱えている大量の紙袋に手を伸ばした。
「えっ、これって蒼たちの荷物なのか?」
薫からいきなりこれを持っていけと言われ、わけがわからないままこの大量の買い物袋を持たされた。薫が今まで散々颯人たちを振り回したお詫びなのかと思い、ありがたく受け取っていた。
「そうなの!実は私達も薫に偶然出会ったの。それで薫が車でグラウンドゼロやモールとかあちこち連れて行ってくれて。一緒にジェラードも食べたんだよ。知ってる?あの紅茶ジェラードで有名なビーガン・アイスクリーム屋さん。すごく美味しいの。今度一緒に食べに行こうねって……そういえば、颯人さんたちも偶然に薫に会ったの?」
蒼は不思議そうに首を傾げた。それを聞いた颯人は怒りで体を震わせた。
「あいつ、ずっと蒼のいる場所知ってたんだな。今度会ったら殺す」
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