【番外編】One Day in New York

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 「今日、お買い物をしてて、これ斗真さんに似合うかなって思って。もしよかったら使ってください。指輪のお礼です」  そう言って、香澄は再び嬉しそうに婚約指輪に触れた。  昨日プロポーズしてから香澄は指輪が気になるのか一日中眺めたり手で触れている。そんな香澄を見て、胸が苦しいほど愛しさが溢れ出してくる。  「香澄、おいで」  斗真はネクタイとネクタイピンを大切に再び箱にしまうと、香澄を引き寄せて自分の膝の上に乗せ向かい合わせになるよう座らせた。  女の子3人で楽しく買い物をしていても、自分のことを考えていてくれたんだと思うと、胸がじんと熱くなる。彼女の斗真への愛情はいつもわかりやすく真っ直ぐで、そして健気だ。  「ありがとう。大切に使う」  斗真は香澄の頬を優しく撫でた。香澄はうっとりと目を閉じて斗真の手に頬をすり寄せる。  香澄はここ最近見違えるほど大人っぽく、そして綺麗になった。  あのろくでもない両親と縁を切って自由を得て、そして夢を叶えてニューヨークまで来た彼女は、まるで今まで萎んでいた花が大輪の花を咲かせるように美しくなった。  「あの、スマホ大丈夫かな」  香澄は未だに乾燥剤と共にジップロックの中に入っているスマホを心配そうに見た。  「もし、明日電源を入れても正常に動かなかったら新しいのを買おう」  「でも、あの中には、斗真さんとの思い出の写真がいっぱい入ってるのに……」  香澄は悲しそうに電源の入っていないスマホを見つめた。  「思い出ならまた沢山作ればいい。これからずっと死ぬまで一緒なんだから」  斗真は香澄のうなじにするりと手を滑らせると、ゆっくりと自分に引き寄せて唇を重ねた。その途端、言葉では言い尽くせないほどの幸福感に包まれる。    早速新しい2人の思い出を作ろうと、斗真は香澄をゆっくりとベッドに押し倒した。  そう。こうして毎日思い出を一つ一つ作ればいい。  二人には、何十年という長い未来があるのだから――…
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