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「凛桜、可愛い」
一樹はそう耳の中に囁きながら、急いでベッドサイドテーブルに手を伸ばすと、避妊具を掴もうとした。
「えっと……その……子作りするんでしょう?」
凛桜はその手を掴んでとめた。
「……本当にいいのか?」
一樹は確かめるように彼女の火照った顔を覗き込んだ。
確かに昨日そんな事を冗談半分で言った。もちろん凛桜との子供は今すぐにでも欲しい。きっと凛桜のように明るくて可愛くて、男の子でも女の子でも一樹は目に入れても痛くないほど溺愛する自信がある。
でも凛桜からこの新婚旅行が始まって以来ずっと拒み続けられていたのもあって、もしかすると凛桜はもう少し後でと考えているのかもしれないと思ったのだ。
「うん。実はね、わたし、会社辞めようと思ってるんだ」
「えっ……?」
思いがけない言葉に一樹は驚いて目を丸くした。
「実はね、KTMの安達さんが一緒に仕事をしないかって誘ってくれたの」
「えっ、安達さんが?」
KTMは今一樹と凛桜が勤めているネットアーチのライバル会社で、安達さんは何度も賞を受賞している優秀なデザイナーだ。
「彼女ね、去年結婚して今お子さんがいるんだけど、やっぱり自分のペースで子育てしながらできる仕事にしたいって独立したの。それで、以前から私の仕事ぶりを見てくれていたみたいで、一緒に仕事をしないかって誘ってくれたの。私プログラミングもできるし」
確かに凛桜はプログラミングもできる優秀なディレクターだ。彼女には今までネットアーチで培った知識と技術がある。プロデュースからプログラミングまで全て出来るだろう。
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