一度目の人生

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一度目の人生

一度目の人生。   私は大学を出て大手商社に就職した。 幼い頃事故で両親を亡くし祖母に育てられた私は、それほど裕福な生活をしてきたわけではない。 祖母は親のいない私に寂しい思いはさせまいと、愛情深く育ててくれた。 祖母は塾の事がよく分かっていなかった。小学校入学と同時に、唯一徒歩で通えるプリントをひたすら演習する塾を選んだ。算数や国語は自分にも教えられるが、英語は無理だからという理由で選んだという。 ひらがなもまだちゃんと書けない小学校1年生の私は苦労した。 けれど私はひたすら英語プリントをやるという学習を続けた。 英語がずば抜けてできたので高校受験は楽だった。 そして英語だけで難関大学に合格した。 TOEIC満点で一流企業に就職の内定をもらった。 4歳上の雄一さんと出会ったのは職場だった。 就職して二年目に、大阪で一人で暮らしていた祖母が亡くなった。 祖母が発見された時には死後3日が経過していたという。 もっとこまめに連絡をしていればよかった。 休みの日には帰郷するべきだったと後悔した。 私はもう身寄りがいない。天涯孤独になってしまった。祖母がいなくなるなんて考えていなかった。 もう高齢だったからいつかは亡くなってしまうと分かっていたのに、ショックは大きかった。 会社の上司である雄一さんが葬儀に来てくれていた。 私の指導担当もしてくれた雄一さんは、泣いている私の肩を抱いて慰めてくれた。 それから彼との交際が始まった。 彼は困っている人に手を貸すのが好きな人だった。 誰からも頼られる存在で、分け隔てなく皆に接していた。 背も高く、エリートで見栄えも良い。彼は女子社員から人気があった。 そんな雄一さんの恋人の座を射止められた私は幸せだった。 付き合って2年が経った。 「俺が美鈴を一生守っていく。家族になろう」 彼からのプロポーズの言葉に、嬉しさのあまり涙が出た。 差し出された指輪を震える手で受け取って「はい」と返事をした。 彼は「俺は世界一幸せだ」と言ってくれた。
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