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ガチャッと玄関のドアが開く音がした。
雄一さんが帰って来た。
「おかえりなさい」
「……ただ……いま」
夫は私が待っていた事に驚いたようだった。
10時だから雄太はもう眠っている。
いつもは夫が帰って来ても出迎えていなかった。
「話があるの」
「ああ」
「先にお風呂入ってくる?」
「そうだな。そうする」
私は雄一さんのために簡単なつまみを作った。
ここ最近晩御飯を作っていなかったから、彼は食べてきているだろう。
晩酌程度のものだがテーブルの上に置いた。
「話って?」
「今までごめんなさい。私はあなたの妻としての役目を放棄していたわ」
彼は虚脱したような様子で、安堵の色を顔に浮かべた。
「いや、俺も悪かった。家庭を顧みず、仕事だからっていつも遅くに帰っていたし、雄太の世話も君にまかせっきりだった。誕生日も、約束を守れずすまなかった」
「雄太のためにも、夫婦としてお互い歩み寄る必要があったと思う。これからはもう少し会話も増やして、相手を思いやって生活できたらなと考えていたの」
「ああ。俺も、家族の時間が持てるように努力するよ」
やり直しはできないだろう。
過去2回どうやっても無理だったのだから。
「お互い言いたいことを言わなかったせいで、すれ違いが生じたと思う。あなたが歩み寄ろうとしてくれたことは夫婦としての成長だと思う。これからどうやって過ごしていくか話し合いたいわ」
「ああ。それは俺も思っていた。食事の用意も、食べてきたら無駄になるのに、毎日作れというのは間違っていた。前もって食事が必要な日はちゃんと言うから、作ってもらえるかな?」
「わかったわ」
「休みの日はなるべく雄太と過ごせるように調整する」
「ええ。お願いします。雄太も体力がついて来て体を動かす遊びがしたいと思うの。私では無理な事も出てくるわ。だから公園の遊具で遊んだり、ボール遊びとかそういうのに付き合ってくれると助かる」
「ああ。休日は公園に連れて行くよ」
「雄太と毎日顔を合わせられるように、朝ご飯を家族で食べましょう。あなたの出勤に合わせて雄太も起こすわ。朝食は毎朝用意します」
彼は頷いた。
「いつも、掃除とか洗濯ありがとう。冷蔵庫にも簡単に食べられる物をいつもいれてくれてるし、俺の好きなビールも常備してくれて感謝している」
彼の好みの物を冷蔵庫に入れておくと、翌朝無くなっていたりする。
お腹がすいていたら食べられるように、適当なつまみも置いている。
ちゃんと気がついていたのねと思った。
「雄太が笑顔でいられるような家族になりましょう」
とりあえず、後一年は妻としての役割を全うする。
「それじゃぁ、私は先に休みます」
「ああ。おやすみ」
おやすみ、っていつぶりに聞いたかしら。
彼の顔をしっかり見たのも久しぶりな気がした。
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