三度目の人生

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田所さんから連絡が入った。 「河合愛梨のスマホの情報を手に入れた」 「え!どうやって?」 田所さんはニヤリと笑った。 「うちの探偵が河合愛梨と接触した。バーで知り合って持ち帰った」 「え!持ち帰り?」 「そいつの本職は女性専用風俗セラピストだ。金さえ払えば奉仕するっていうあれね」 どうやら、バーで河合愛梨をナンパして意気投合したらしい。 手に入れた物は、夫と河合愛梨のラインのやり取り。 そして彼女が撮っている写真と動画全て。 それからサービスでっという事らしいが、彼女とセラピストの行為中の動画。 「この証拠品には全部で50万かかった。彼の取り分だ。離婚時の慰謝料に経費として上乗せする形でいい?」 「あ、ええ。大丈夫です。というか、私、お金はありますのでご心配なく。仕事ですからちゃんと請求をお願いします」 「旦那さんはラインとかをすぐに削除してると思うけど、彼女はそのまま残していた。内容を見たけど、結構衝撃的だった。読むときは覚悟して欲しい」 彼女と夫のメッセージのやり取りの中に、子どもの事が出てきていた。 私はじっくりとそれを読んでいった。 『早く雄太君を自分の子どもにしたい』 『必ず雄太を手に入れるからもう少し待ってくれ』 『私だったら、もっと楽しい家庭にする』 『妻は根暗だし、家の中の空気がいつも重い』 『雄太君もそんなママは嫌でしょうね』 『そうだな。子どもはもっと明るい家庭で育つべきだ』 「なんて……酷い……」 報告書を持つ手が震える。 田所さんも頷いている。 「すべて証拠だと思って我慢して」 夫は私の子育てに対して文句があったのね。 ワンオペ育児だったけど、雄太と二人で精一杯頑張ってきたつもりだった。 「気にするなと言っても気にするだろうけど、雄太君は明るく元気で、まっすぐ育った良い子だと思う。だから、心配することない」 『誕生日に帰れなかったこと、怒ってなかった?』 『少し、拗ねていたようだが仕事だから仕方ないだろう』 『仕事って、私との夜の仕事だったけどね(笑)あそこのホテルすごく良かったわジャグジー最高だった。また連れて行ってほしい。ありがとう』 『家族より大事だって証拠を見せろって脅したくせに』 『ごめんなさい。だからお詫びに雄太君誕生日プレゼント選んだでしょう?雄太君は気に入ってた?あの電車のセットは子どもに大人気で今は手に入らないらしいの』 『ああ。喜んでたよ。妻のプレゼントは安物の絵本で、子どもがもらっても面白くないものばかりだ』 最低だ。雄太の誕生日に女とホテル。そして誕生日のプレゼントは彼女が選んだんだ…… 「浮気の証拠は十分だろう。問題は、このやり取りの中に、雄太を自分たちの子にするという文面が何度か出てきていることだ。そして、もう一人子供を産ませて、その子も自分たちで育てたいというやり取りをしている」 まとめてプリントアウトしてあるものを見せてもらった。 これは、田所さんには驚きの内容だったようだ。 「まさかもう一人美鈴ちゃんに産ませようとしていたなんて。恐ろしいな」 でも私は知っていた。 「ええ。薄々感じていました。だから、親権は絶対に渡したくないんです」 眉間にシワを寄せて、困ったふうに私の顔を見つめる田所さんの眼差しに、申し訳なさが込み上げた。 それから田所さんは、私の知らない新しい情報を教えてくれた。 「河合愛梨が3回中絶していることは知っているよね?」 「ええ。それは知っています」 「その相手が誰なのかは知らない?」 「相手の男性は知りません」 「彼女が3回目の中絶手術を受けた時の相手は、旦那さんの職場の榎木部長だ。旦那さんとの不倫が始まる半年前まで、彼女は部長と不倫関係にあった。そして、彼の子を妊娠し、中絶して、子どもが産めない体になった」 驚きで声が出なかった。 榎木部長は他の部署だったが、私たちの父親ほどの年齢の人だ。奥様もいる。 「まさか……」 「部長の夫人に浮気がバレて、妊娠したことも知られたようだ。奥さんは愛梨を訴えようとしたみたいだが、会社に知られるのも困るし、自分の旦那の子を妊娠したとなったらゴシップどころじゃすまない。逆に慰謝料として100万渡して子供をおろすよう言って、口外しないよう口止めをした」 「榎木部長の浮気は許して、愛梨をお金で黙らせたわけですね」 「夫人は離婚されたら自分も困ると思ったんじゃないかな。ただ、河合愛梨のことは相当調べたらしい。後から問題が起きないよう、彼女素行調査をしたみたいだ」 「それってどうやってわかったんですか?」 「これも、出張風俗君が聞きだしてくれた。酒に酔わせて、持ち上げてしゃべらせた。彼女はただの一夜限りの相手だと思って気を許したようだ」 「河合愛梨は本名も会社の名も言ってないから大丈夫だと思ったですね。けれどこっちは、最初から彼女がターゲットだった」 仕事ができる出張風俗君って凄い。 そして彼は、彼女が寝ている間にスマホから情報を抜いたという。 「そうだ。でも彼からはかなり高額な請求がくるよ」 「確かに一夜で50万ですもんね」 「まぁ、ここにも来てくれて計画練ったから、3日で50万ってとこだな。あいつ、かなりのイケメンだから、女関係だったら何でもうまく仕事をこなす」 「凄く、優秀なんですね」 そんなに凄いイケメンに会ってみたいなと思ってしまった。 彼の仕事は50万以上の価値があるのは間違いない。 これを証拠に数百万の慰謝料を得る事ができるだろう。 「それで、ここから君の出番だ」 「え……私の?」 「榎木部長の奥さんに会って来て欲しい」
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