大逆転?

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大逆転?

   翌日ジョージの姿は珍しく近所のダイナーにあった。たまにはアルコール以外のものも腹に入れたくて、ちょっと油っぽいカウンター席に座る。  客は彼の他に新聞を読む男と、コーヒーを注文する男。たった今テイクアウトして出ていったので二人だ。 「チーズサンドとフライドポテト。あとビール」  ガムを噛んでるウェイトレスに注文を言うと、彼はビールが出て来るまでの僅かな時間が待てず足をガタガタと揺らしていた。  ボトルが置かれるとすぐに喉に流し込む。  苦みと炭酸の刺激が彼の気持ちを幾分スッキリさせていく。  すぐにもう一本追加した。 バサッ 「チクショウ!!」  三つ隣のカウンター席にいた男が、読んでいた新聞をジョージの方に投げた。  頭を掻きむしった男は、来たばかりのコーヒーを残し、片手で顔を覆うようにして出ていった。  イラっとしたジョージはその男に新聞を投げ返してやりたいとこだったが、ふと気になる数字が目に入った。  あのスった財布に入っていた宝くじの当選発表が載っていたのだ。  そんなのスリルがないと言った彼だが、それでも数字を見てしまう。  確かあの数字はA1055438だ。  彼は数字を一瞬で覚えるどうでもいい特技がある。これが役に立ったのは小学校の頃にクラスでちょっと有名になった時だけ。 「一等……A1055……おい嘘だろ」  続く数字は438。 「勘定ここな!」  彼は二十ドル紙幣を叩きつけるようにカウンターに置くと、釣銭も貰わず家に走った。  見つけたウェイトレスはほくほくで釣銭の九ドルをチップとして頂いた。 「どこだ……捨てて……ゴミ箱、ゴミ箱から外れたんだ!」  ゴミ箱も意味をなさないゴミの床の中から、彼は丸めた小さな紙を探す。  ピンクと青の柄が特徴的な宝くじは、丸めた状態でもすぐそれと判別できた。  手が震えてうまく開けない。  しわしわになった紙をやっと伸ばすと、番号を確認した。 「A1055438! 幸運の女神が起きやがった! 十万ドル! 十万ドルだ!」  美学が一瞬で吹き飛んだジョージは、慌ててシャワーに入った。  ぎとついた髪を洗い、髭を剃り、ついでに歯を磨いて多分洗ってあるシャツとジャケットをクローゼットから引っ張り出すと着替える。  鏡には久々に真人間に見える自分がいた。  しかし中身まで真人間になったわけではない彼が向かった先はやはりカジノ。  さっさと宝くじを換金すると、その足でそのままクラブの奥にある違法カジノへと乗り込んだ。  すぐに探すのはジュリアの姿。  だが間の悪いことに彼女の姿は見えない。 「おいバーボン! ダブルだ!」  景気づけに一気に流し込むと、喉を焼くような刺激に唸りながら意気揚々とルーレットの台についた。  今日、今日ついに街が買えるほどの金が手に入る。  彼は絶対に勝つと信じている。幸運の女神がついに彼の価値に気づいたのだから。  だがそれから一時間後。 「馬鹿ね、あなたって」  カウンターで五杯目のバーボンを飲むジョージに、来たばかりのジュリアは残念そうな目を向けた。    あなたはギャンブルに向いていないのよ。  それを元にまともな生活に返り咲くチャンスだったのに。  あなたみたいな小者は、やがて大きな組織に巻き込まれて身を持ち崩すの。  危ない橋を渡らされ、踏み外せばほったらかし。橋を渡る最中に足元を崩されることだってあるわね。 「仕事しなさい」 「二の句には仕事仕事。おめえもよ、こんなとこにいるんだ。こっち側の人間だろうよ?」    やや呂律の回らない台詞と、焦点の定まらない目。  彼はグラスの中を飲み干すと、「ボトル持って来い!」と叫んだ。ちなみに三杯目からはジュリアの金で飲んでいる。 「体壊しちゃうわよ?」 「うるせえ、おめえに関係ねえだろ……」  ぐいっとボトルごと中身を飲む。口の端から半分くらい零れていた。 「せっかくいい服着たのに。ほんとおバカさん。ねえ、私が仕事紹介してあげようか?」  彼の一張羅はもう酒まみれだ。  彼は「余計なお世話だ」と言うと、付き合うつもりはないらしいジュリアの代わりにバーボンの瓶を連れて店を出ていった。
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