明日、六時半にさくら公園で

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 すやすやと、後ろの席から気持ちよさそうな寝息が聞こえる。  教室の中の全員がそれに気づいているにもかかわらず、だれも寝ている当人に声をかけようとはしない。  それは安達美奈も同じだ。  高校一年生のときは平和だった。  中学校からの友人のゆかりと同じクラスになり、席も近かったので、休憩時間のおしゃべりも、一緒に食べるお弁当もすべてが楽しく、無用なストレスを抱えることはなかった。  高校二年生になると、ゆかりとまた同じクラスになれたものの、席が離れてしまった。  残念ではあったが、それだけならば問題はない。  お昼休みになれば生徒たちはそれぞれのグループを作って食べるので、美奈もゆかりの席の近くに移動すればいいだけだ。休憩時間のおしゃべりだって継続している。  美奈が抱えることになった無用なストレス。  それは、美奈の後ろの席になった素行不良な生徒、相馬太晴が原因だった。  授業中に、美奈の後ろで爆睡しているやつだ。  遅刻をするのは当たり前。授業中はずっと寝ていて、ほとんど起きてくることはない。  髪の毛を金色に染めていて、背が高く、がっしりとした体格のため、立ち上がるだけで周囲に威圧感を与えた。  常に不機嫌なオーラを全身からかもし出していて、プリントの回収など、仕方のない事情で話しかけるだけで鬱陶しそうな顔をされる。  このように、なるべく関わりあいになりたくない人物が、美奈のすぐ後ろに座っている相馬太晴だった。  夏休み前には席替えが予定されている。  それまでは息を潜めて、なるべく気づかれないように生きていこう。  そう思っていたのだが。 「安達さん。相馬くんを起こしてあげて」  教師たちも相馬となるべく関わりたくないと考えているらしい。  しかし、授業中に居眠りをしている生徒を放置しておくわけにはいかない、という義務感もある。  アンビバレンツなそれらの折衷案が、相馬の前に座っている生徒に起こさせる、だった。 「ご自分でどうぞって言ってやれよ」とゆかりは怒ってくれるが、教師に反抗するほどの勇気は持ちあわせがない。 「相馬くん、相馬くん」  次の席替えまでの我慢。  繰り返し、自分に言い聞かせながら、後ろの席の相馬に声をかけた。  いつもの相馬の反応は、不機嫌な声を出しながら起きてくる、または起きてこない、のどちらかだ。  しかし、この日は違った。 「あ?」  半分眠っているような、ぼんやりとした声を出しながら相馬が頭をあげる。  やはり半分眠っているような目で美奈を見ると、こう続けた。 「ああ……安達。犬の飼い方おしえてくんね?」  思わず、美奈は「は?」と声を出してしまった。
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