大好きな君が幸せでありますように

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 もうすぐ時間だ……。  至福のひと時は、今日も終わりの時刻を告げようとしてくる。  いつものように色々なものを元へ戻して、所定の場所へと帰らなければならない。  ただ、今日はちょっと変化があったのが気になる。  いつもは五枚切りの食パンを一枚食べるあの子が、半分しか食べなかった。  朝から咳をしていたからか、ソーセージも目玉焼きもなかったし、昼食用の弁当も今日は作ってない。  具合が悪いなら休めばいいのに、仕事が忙しいからか、即効性のありそうな風薬を服用して、いつもの戦闘服に着替えて出て行った。  今日はグレーのタイトスカートのセットアップ。  シックな霜ふりグレーもいいけれど、どちらかと言えば、昨日の紺色のパンツスーツの方がそそられる。  下着のデザインによっては、尻の形がくっきり透けて見えて興奮するからだ。    ま、どちらにせよ、無事に帰って来るかが心配だ。  熱を出してないだろうか、昼飯はちゃんと食ったのか。それより何より、他の男に熱っぽい顔を見せてはないだろうか。  普段の顔も好きだけれど、寝起きや、今日みたいに具合の悪い時に見せる、無防備な顔が特に好きだ。  おっと、もの思いに耽っている場合じゃない。  便座をちゃんと下ろしてないか確認しておかないと。これは結構重要なことだ。  半分残した食パンの偽造は、食べたすぐに済ませたから大丈夫。  普段もどこか抜けているあの子は、食パンが袋に何枚残っているかなんて気付きやしない。  ハムの枚数も、卵の数もそうだ。  あの子と同じような食生活だから、邪魔だった腹の肉はだいぶんスリムになったけれど、紙おむつは中々慣れない。けれど、明日の朝までトイレに行けないから、これは必須なのだ。  飲料水用のペットボトルに水道水は汲んだ。  怠ったところはないか考えていると、ズボンのポケットに押し込んでいた下着に気付いた。    築年数の古いこのハイツの一階角部屋。  あの子は下着を盗まれないよう、用心のためにいつも部屋干ししている。  ピンクのレースの華奢な下着が誘うから、つい、ポケットに入れてしまった。   これはさすがになかったらバレる。元に戻しておこう。  一人暮らしにしては広いこの部屋の、キッチンの床下はデッドスペース。  あの子が暮らし始めて半年になるけれど、こんなところに収納スペースがあるのをいまだに気付いていない。キッチンマットを蓋の上に敷いているくらいだ、知ってたにしても使う予定がないのだろう。  前にこの部屋に住んでいた人間は最悪だった。  男だし、ゴミは溜めるし、夜中はずっとオンラインゲームをしていた。  お陰であいつがいない間、掃除してやる羽目になったくらいだ。  自分は綺麗好きだから、我慢できなかった。必要な労働だ。  部屋の時計を見ると、もうすぐ十九時。残業がなければ帰宅する時間だ。  体調が悪いから、定時で帰って来る、いや、帰ってきて欲しい。  本当は、お粥なんか作って置いておきたいくらいだ。 「ダメダメ。そんなことすればバレるわ」と、ひとりボケツッコミをした。    さあ、いつもの場所へ戻ろう。  パンプスで廊下を歩く音がしたあと、鍵を開けるいつものルーティン。  女の一人暮らしは危ないからと、あの子はいつも『二人暮らし』を装っている。  朝もそうだし、帰って来る時も、もちろんそうだ。  ほら、もうすぐ聞こえる、『ただいまっ』と、声がして誰もいないの部屋にあの子が帰って来る……。  オ・カ・エ・リ……。                    
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