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故郷の山
「仏塔に向かって」
◆故郷の山
僕にとって「山」とは故郷の山しかない。
生まれてから、結婚して家を出るまで、家から見える大きな山はずっとそこにあった。
故郷の町の外観が変わっても、山だけは変わらない。そんな安心感を与えてくれるのが故郷の山だ。
けれど、その山は入ることが出来ない。関係者なら入ることが出来るが、部外者を撥ね返すようなゲートがある。
もちろん最初はそうではなかった。
子供だった頃、山の頂に向かう砂利道は、子供の夢に満ちていた。夢と言っても大した夢ではない。山の中でセミを追いかけたり、茂みに入ってカブト虫やクワガタを探したりする他愛もない夢だ。
けれど、夢は成長するに連れ、進化していく。
山道を進むと広い草原がある。ある程度の年齢になれば、可愛い女の子と手を繋いで駆けていきたい。そんな夢に変わっていく。
だが、そんな夢はもろくも崩れた。
僕が誰かに恋するような年齢になるまでに、山の麓に、「立ち入り禁止」の立て看板が設けられた。
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