宗教施設

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宗教施設

◆宗教施設 「山に行って虫を捕れへんようになってもうたで」  近所の幼馴染の子、文哉くんがそう言った。  それは子供たちにとって一大ニュースだった。  今のように多種多様なゲームのない時代、山は子供にとって大きな遊び場なのだ。その山が失われるというのはショックな出来事だ。 「何で入られへんのや?」  近所の商店街の文哉くんに訊ねると、 「父ちゃんが言うには、宗教の施設が出来たらしいで」と言った。  確かに、家の二階の窓から山を見ると、その頂近くに、仏塔のような物が出来ていた。  まだ建築中だから山に入ってはいけないのかと思っていたら、違った。  施設が完成したら、その宗教の信者しか入れなくなる。  そんな・・  子供だった僕は絶句した。毎年夏になると山で虫を捕るのを楽しみにしていたのに・・子供の遊び心にストップがかかったようだった。  現実は子供たちの日常生活の楽しみを奪っていく。  ある日曜日の朝、そんな光景を見た。  僕の生家からは山の全貌が見えた。目を凝らせば、山道を歩いている人が見えるくらいに近い。  小学校の遠足などがあると、多くの子供が歩いているのが見えるくらいだ。  だがその日は、山道が「白い道」に見えた。  つづら折れの道伝いが全て白くなっている。  あれは何だろう?  僕は目を凝らした。道を白く塗ったのかな、と思ったが、違う。動いている。  その原因はすぐに分かった。  それは人間だった。  白装束を着た人間たちが、つづら折れ伝いに頂上に向かって歩いているのだ。それも物凄い数だ。  父に、「あれは、何の人たちなん?」と訊ねると、 「あれは教団の施設に行く信者の連中や」と不快そうに言った。  それが僕が見た最初の宗教信者たちだった。
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