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楼閣
◆楼閣
警備員に対する悪口が当たっていたのかどうか分からないが、
しばらくすると、町である噂が立ち始めた。
それは淫靡な雰囲気を伴う話だった。当然、その噂は大人から子供たちに広がった。
「仏塔の近くにあった建物って、楼閣(ろうかく)って呼ばれているらしいで」
子供たちが集まる駄菓子屋で文哉くんがそう言った。
「楼閣」という馴染みのない言葉に戸惑ったが、
駄菓子屋にいた中年男が、「坊主ら、もう色気づいたんか」と笑って、
訊いていないにも関わらず、
「楼閣は、大人の男が女を買う所だ」と説明した。
更に、「坊主らにはまだ早いで」と言った後、「お前らの父ちゃんもお世話になっとるんとちゃうか」とからかうように言った。
その時の男の不気味な笑顔は、山の警備員の薄ら笑いと同じだった。
女の人が男の人に体を売る・・
その時、僕はまだ子供だったが、さすがにその意味は分かった。
テレビや雑誌、そして、小説などで、性的なものは溢れるほど氾濫しているからだ。
更に聞いた話では、その楼閣を陰で運営しているのは、宗教の団体だということだった。
お金の流れがどうなってるのか分からないが、楼閣で得た金が教団の資金源になっている可能性もあったし、その逆の場合も考えられた。
いずれにせよ、ショックだった。
山開きには、山に行き虫捕りをし、更に年頃になれば、好きな子と草原を駆けたい、と思っていた山が、白装束の信者たちで溢れ返り、更には売春が行われているのだ。
懐かしむべき故郷の山が、憎しみの標的に変わったようだった。
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