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大人の世界
◆大人の世界
「おいっ、誰か出てきたで!」
文哉くんが皆に注意喚起した。
入口らしき方に目をやると、大人の男女が寄り添うようにして出てくるのが見えた。
おそらく女はここの娼婦だ。かなり派手な洋装を身に付けている。全体的に赤色を基調とした品のない服だった。身のこなしもだらしない。少なくともこんな淫らな感じのする女を見たのは初めてだった。ワザとなのか胸元もはだけている。
その女に男がニヤニヤ笑いながら話しかけている。
普通であれば「あんな大人にはなりたくない」と思うところだが、その雰囲気に流されたのか、妙な憧れめいた感情が生まれるのを感じていた。
だが、それはものの数秒だった。
女の方が僕たちに気づいた。「なんや、子供かいな」と呆れたように言って、
「子供らは早くお家に帰りな!」と乱暴な口調で言った。
続けて男も僕たちの方を見て、
「まだケツの青いガキには早い場所やからな」と嘲笑するように言った。
すると、男女の声に気づいたのか、中から黒い服を着た屈強な男が出てきて、僕たちに向かって、何やら叫び出した。
だが、何を言っているのかさっぱり分からなかった。ただ、僕たちを追い払う言葉を吐いているのは確かなようだった。
文哉くんが男の言葉を聞いて、「あれは日本語とちゃうで」と言った。
更にもう一人の男子が、「女を買いに来たおっさん、商店街の肉屋のおっちゃんやで」と言った。
その言葉が聞こえたのか、女を買いに来た男は顔を伏せ、女に「ほな、またな」と言って足早に去って行った。
女は男を見送りながら「また来てな!」と手を振っていた。
男は女を買い、女は金を受け取る。かりそめの関係だが、その時の僕は二人を見ながら、羨ましいと思っていた。
文哉くんが「帰ろか」と言うと、皆も道を下り始めた。
「なんか、イヤらしいな」と誰かが言ったり、
「俺の父ちゃんも、ここに来たことがあるんかな」と呟いたりした。
更に誰かがポツリと言った。
「大人になったら、ここに来たいな」
帰り道、その言葉が頭の中をぐるぐる回っていた。
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