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結局、僕たちは楼閣の入り口までしか行くことは出来なかった。仮に中に入ったとしても、あの日本人ではない男に追い払われるのは目に見えていた。
あまりに衝撃的な出来事に、その日は眠れなかった。
大人の醜い世界の一端に触れたような気がして、嫌悪の感情で溢れていた。
自分も大人になれば、あのような場所に行くのだろうか。
それは望んでいくのか、仕方なしに行くのか、それさえも分からない。
けれど僕は、楼閣などよりも、好きな子と手を繋いで草原を駆けて行く、そんな場所の方が好きだった。
だが純粋な子供の願いを叶えるほど、世界は都合よく出来ていない。
僕の故郷の山では、今も教団の施設がどしっと鎮座している。けれど、売春に使われた楼閣は今はもうない。
町の人々の非難に負けたのか、それとも時代の流れだったのか分からないが、数年後には撤去された。
そもそも楼閣が仏塔と教団と関係があったのかも今となっては分からない。
けれど、もしあの楼閣が今でもあるのならば、少年の日、行動を共にした文哉くんたちも女を買いに楼閣に足を運ぶ大人になっていたかもしれない。
だがその流れを誰が非難できようか。
それが子供から大人に成長するということだからだ。
(了)
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