無くした思い出

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 あれは小学生の頃だ。僕は当時典型的な独りぼっちの少年で、碌に友達もおらず、いつも一人で遊んでいた。ある日、親がたまたまいない日があり、その日だけは家に直帰せず、ブラブラ道草をくって歩いていた。知らない道を適当に歩いているといつの間にか開けた場所に出ており、ちょっとした広場に迷い込んでいた。少し焦って元の道へ戻ろうとしていると、どこからともなく歌声が聞こえてきたのである。澄んだ綺麗な声であり、僕は思わず聞きほれてその場で足を止めた。そしてその声の主に興味を持ち、音の出所を探ってみることにした。その場所は案外簡単に分かった。目立つ小高い丘の上にその人物はいたからだ。その子は女の子であり、子供の目から見てもとても儚げに見えた。内気な僕であったが、その時だけは勇気を振り絞って彼女に近づき、声をかけてみた。 「こんにちは」  歌っていた少女は途端にビクッとして歌をやめた。 「僕は富岡佑っていうんだ。君は?」  少し間をおいてから少女はこう言った。 「中田優子…」  これが僕と彼女の出会いだった。
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