無くした思い出

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「へー、歌も凄いけど絵も凄いね」 「そんなことはないです……」  僕たちはいつの間にか仲良くなっていた。互いに友達が少ないもの同士、惹かれ合うものがあったのかもしれない。僕は暇ができると件の広場へと急ぎ、彼女と過ごすのが日課になっていた。そんな日が続くと当然互いの事も深く知るようになる。僕は彼女の描く絵がとんでもなく上手い事に気付いていた。 「ねぇ描き終えた絵ってどうしてるの?」 「特に何もしてないけど……」  どうやら描くだけ描いて放置しているらしい。勿体ないと感じた僕はこう言った。 「なら描いた絵頂戴!」 「えっ?別にいいけど……」  僕はこうして彼女の絵が描き終わるとそれを貰って集めるという新しい趣味を得たのである。  ある日、突然の大雨が降った。流石にその日は広場にはいかず、一日中彼女から貰った絵の数々を眺めて過ごした。だが、僕は知らなかったのである。その日ですら彼女は広場におり、僕を待っていたことを。  翌日、すっかり晴れた日に僕は意気揚々と広場に行ったが、そこに彼女の姿はなかった。代わりに手紙が一枚そこに置いてあったのである。僕はその手紙を読むと愕然とした。  内容は、自分は病気であること、数日中に手術を受ける為に渡米が決まっていたこと、前日の雨のせいで体調不良を起こし少しの間しかここに留まれず手紙をしたためたこと、これでサヨナラだということを謝罪するというものだった。その手紙には一枚のポストカードが同封されていた。彼女の新作絵だったものだ。僕はそれを見て涙が止まらなくなった。あの時どうして家から出なかったのか、その決して振り返れない過去に。僕は涙したのだ。  それからの僕は彼女の事をいつも思い浮かべては憂鬱な日々を送った。だが、時間というものは残酷なものであり、いつしか彼女の事は思い出の中の一つとして消えてゆき、思い出すこともなくなっていった。必死にお願いして集めた彼女の絵も物置の奥へと封印されていたのである。
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