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56 隣国アルランタ王国にて
「おはようございます、旦那様」
「ああ、おはよう。私はこの後すぐに皇城に向かうことになっているが君は?」
「わたしはもう少し後ですね。たしかどの家もすでに代替わりしているのでしたよね?」
今の当主はみんな若かったはず。継承式は当主以外もロードのことを知る人なら大体参加するけど、当主以外は絶対じゃないからね。
「そうだな。それと今回は序列一位の継承式だ、ロードは当主だろうとそうじゃなかろうと全員参加することになっているが把握していたか?」
「いえ、知りませんでした。それって結構な人数がいるんじゃないですか?」
「まあそうだな」
「継承式自体は少し楽しみですし、全然良いんですけど問題はその後ですよね。ちょっとした祝宴があると聞きました」
主役はわたしですから絶対挨拶回りとかしないといけないですよね。想像するだけで疲れますよ。
それに全員参加されるのなら旦那様のご両親もいるってことじゃないですか?わたしはあまり社交界に出てこなかったので見たことないと思うのですが。お父君だけならまだ良いんです。でも旦那様の言い方からして関係者も参加しそうですよね?ということはお母君もいるってことじゃないですか……旦那様が嫁姑問題は怒らないと断言してくださらなかったから不安なんですけど?……面倒なことにならないように願っておきます。全力で!
「君がやりたくないなら早めに終わらせるよう皇帝陛下に頼めば良いのでは?」
「そうですね、検討しておきます」
皇帝陛下は喜んで祝おうとすると思いますから多分無理ですけどね。
◇
「本当、嬉しい申し出だったよ。リーシャ様とは数年ぶりにお会いすることになるのかな。まさか護衛として働かないかと言われるとは思ってなかった。過去にも未来にも彼女以上に強い人は現れないだろうに。まあ僕が護衛する必要はないと思うけど、実際には話し相手のようなものだと言うなら納得か。僕が言えたことではないかもしれないけど彼女も中々変わってるからね。得体の知れない人物を雇うなんて危機感がないと言うべきか、信用されていると言うべきか……」
リーシャの継承式前日。夜も更けた頃、隣国アルランタの王城の頂にはローブを身に纏った一人の怪しげな人物が座っていた。月明かりで照らされたその人物は男とも女とも取れる中世的な顔立ちをしており、黒髪に緑メッシュのエメラルドの色をした瞳がより美しさを際立てる、あらゆる意味で不思議な人物だった。
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