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1 母の葬儀と王子様
「どうしたんだ？」
「！な、なんでもないよ」
「何でもないなんてことはないだろう。そんなに泣きそうな顔をしているのだから」
皇城の庭園で、わたしはぼんやりと座り込んでいた。今日はわたしのお母様のお葬式の日だった。わたしとお母様はこの国にとって欠かせない存在で、特別な立場だと教えてもらった。どんな役割があるのかも聞いてたくさんお勉強した。
病弱だけどその「役割」を果たす時は元気になれるんだって。特別な力を使っている時だけは咳が出ないしたくさん走れるんだって。でもその特別な力のせいで身体が弱いって言ってた。お父様はいない。いつも女の人と遊びに行ってるのをわたしは知ってるの。お母様が死んじゃったから今日はいるけど。
お父様に会えた代わりにお母様に会えなくなっちゃったのかな？それならわたしのことを大好きって言ってくれるお母様と一緒の方が良かったのに。
お母様にもう会えないんだって。絶対に、会えないんだって。悲しくなったわたしは飛び出していった。誰もいない静まり返った庭園に座り込んだ。ほんとはね？知ってたの。お母様とはもうあまり一緒にいられないってこと。
「役割」とか「特別な力」とかは誰にも話しちゃダメってお母様が言ってたからそこは隠してお話しすると、そのかっこいい男の人はわたしにこう言った。
「そうか。悲しいか？」
「悲しいよ…」
「寂しいか？」
「寂しいよ！」
なんでそんな当たり前のことを聞くの？口に出したらもっと悲しくなってきちゃうよ。
「なら泣け。君はお母様のことが大好きだったのだろう？我慢する必要はない」
「でも……」
「そんな顔をして苦しむくらいなら涙が出なくなるまで泣いて、元気に笑ってくれた方が君のお母様は喜ぶと、私は思う」
泣いて良いのかな？わたし、泣いていいのかな？でも……わたしは強くならないといけないってお母様が言ってたよ。わたしやお母様は切り札なんだから誰よりも強くならないとダメだって…
『よく頑張ったね。えらいわ。今日はここまでにしましょうね。わたしは努力家で強いあなたが大好きよ。だけど苦しかったでしょう？今は泣いていいのよ。いっぱい泣いて、涙が出なくなったらいつものように可愛い顔でわたしに笑いかけてほしいな。ね？お母様のお願い、叶えてくれるかな？』
わたしのお母様は優しかった。お勉強の時はすっごく厳しくて、だけどそれはわたしが困らないように、わたしが死なないようにって思ってのことだってわたしは知ってたよ。いつもね、お勉強を頑張ったらこんな風に言ってくれたんだよ。
「お母様……っ」
二度とあんな風に笑いかけてはくれないんだなって理解した。お母様と同じようなことを言う男の人の言葉を聞いて。そう思ったら目が熱くなっちゃったの。わたし、弱い子かな？泣いちゃダメって分かってるのに泣いちゃうなんて。わたしは弱い子かな？
「弱くない。泣きたいなら泣けばいい。我慢すればするほど辛くなってしまう」
綺麗な顔をした男の人は座り込んで泣くわたしを抱きしめてくれた。今更だけどお洋服が汚れちゃうよ、なんて心の中で言いながらもその人に縋って泣いた。人はあまりにも呆気なく死んでしまう。そのことをわたしはよく分かっていたのに。そう思えば思う程次から次へと涙は零れ落ちる。男の人は何も言わずただただ泣きじゃくるわたしの背中を擦ってくれた。
「……お洋服…汚しちゃってごめんなさい」
「子供がそんなこと気にしなくていい。もう涙は出ないか？」
「はい」
わたしが泣き止んだ頃にすぐに戻るからと言ってどこかに走っていった男の人にもう一緒にいてくれないのかなと心配になった。だけどそんな心配は杞憂で、わざわざ自分のハンカチを濡らしに行ってくれていた。その濡らしたハンカチで目を冷やせと貸してくれた。
正直、泣いたのだと分かる顔で戻るのは恥ずかしかったのでとても助かった。話し方はそうでもないけど、優しさは物語に出てくる王子様みたいだなって思ったの。そんな王子様が出てくる物語ってあまり現実味がないよねってお母様に話すと、「妙に大人びてるところがあると思ってたけど、現実的な考え方をするのね」と苦笑された。でもこの人が王子様ならわたしも好きになっちゃいそうって思ったよ。
「お嬢様ー！」
「あっ！わたし、もう行かないと。みんなが探してるみたいです。あなたのお名前は？」
「そうだな……私はルヴィだ」
「ありがとうございました、ルヴィ様！またお会い出来たら嬉しいです。さようなら！」
約束通り、もちろん本心からだけど心からの感謝を込めた笑顔で手を振ってわたしを探している侍女の元へ走った。去り際、ルヴィ様がぽかんとした顔をしているように見えてさらに笑顔になってしまった。
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